「クジラってどんな生き物ですか?」と聞かれたら、私は「海の野生動物です」というか、「海のほ乳類です」と答えます。そしてもう一つ付け加えるならば、「たくさん種類がいます」とも言うでしょう。意外に忘れがちなのですが、世界に「クジラ」という生き物が1種類存在するわけではないからです。
当たり前のように聞こえますが、動物を生物学的に考える時、これは結構重要なことです。例えば「サル」と聞くと、私たち日本人は近所の野山に出没するニホンザルを思い浮かべます。(サルは北海道と沖縄にはいません)。けれどもサルの仲間はテナガザル、キツネザル、マンドリンと沢山います。「サル」を動物学上の「霊長類」まで含めるとゴリラ、オランウータン、私たち人間もまた「サル」の仲間で、すべて合わせれば現在200種類以上が知られています。
同じようにクジラも、動物分類上は「鯨類(クジラ目)」に属する生物で、現在90種類近くが知られています。はっきりと「何種類」といえないのは、クジラに限らず生物の分類は研究機関や学会などによってそれぞれ主張が異なるからです。ただクジラを管理する国際捕鯨委員会(IWC)の科学委員会は2019年時点で86種類のクジラを分類しているので、この本ではこの分類に従っています。この86種類のクジラたちは、大きく2つのグループに分けられます。それは口の中に歯がある「ハクジラ」の仲間と、口の中に歯はないけれど、上あごの両側に数百枚のひげ板(クジラのヒゲと言います)が生えている「ヒゲクジラ」の仲間です。
「ヒゲクジラ」の仲間は、シロナガスクジラやナガスクジラ、ザトウクジラなど、皆さんがクジラと聞いて想像するクジラが多いと思います。上あごのヒゲ板は大量のエサをこしとるために使われます。数多いクジラの中でシロナガスクジラは全てのくじらの中で一番大きなクジラです。その大きさはこれまでに記録のあるシロナガスクジラ中で最大の体長は33メートルで体重は150トン~200トンとも言われています。体長がはっきりしているのに、体重に大きな幅があるのはあまり大きすぎて21世紀の現在まで誰も、このクジラ1頭を丸ごと体重計にのせたことがないからです。もっともクジラの仲間は1日に体重の4%のエサを食べると言われています。この計算だとシロナガスクジラは食前、食後で6トン~8トンも体重が変わるので、あまり正確な体重にこだわる必要がないかも知れません。
以上、下関くじら食文化を守る会、初代事務局長 石川創(はじめ)氏の著書「クジラをめぐる冒険」からです。