今週も創刊号からです。「ミンク鯨赤身1級」は和仁会長の投稿です。先生のことは私が執筆した「元下関市長のふく百話」でも再々紹介させて頂きました。
先生は食文化の大家なるもそのウイットに富んだ人柄から素晴らしい文章を創作し続けました。私も大きな影響を受けた教え子です。その先生の投稿です。

食べ物の美味しさを評価するという仕事に長年たずさわってきたせいか東京に住んでいた頃から第一流と評されるような食べ物に出会えるなら千里の道も厭わぬ生活を心掛けてきた。下関へ移り住んで東京在住の時代にはまったく思いもかけなかった、美味しいものに再々巡り会えるという幸せを感じている。

なかでも衝撃的な経験は「これミンクの赤身1級なんですけど、いまさらでしょうか」と言って南風泊に仕事場がある友人が下げてきてくれたそれを味わった時のことであった。半解凍の作り身を切り立て、つけ醤油におろしショウガ、ニンニクのすりおろしを少々足して一口味わったとき、瞬間、これはいままでのくじらとは大違いだと思った。くじらに対するそれまでの印象というのは、せいぜいウネスのベーコン、鮮度の良くない冷凍くじらの竜田揚げ、照り焼きなど、あの独特のくじらの匂い(あれは脂肪が酸化した匂いだ)と切り離せない風味というものだった。だがくじらの尾の身は本マグロのトロをしのぐなんて話を聞くと、本当かいなと東京は渋谷道元坂にあった「くじらや」に何回か通ったものだったが、ついに得心のいく味に出会えなかったというのが私のくじら食体験のすべてなのである。南風泊の友人が持参した赤身1級は当然のこと調査捕鯨のミンク鯨のものである。そこで「昔はシロナガスしか食わなかった、ミンクはそれに比べると味が落ちる」という話もちょっと頭をよぎったが、しかし実際に味わってみてミンク赤身1級の絶妙な味わいに目からウロコのように感じた。
考えてみると日本漁業の鮮魚冷凍技術が飛躍的に進歩したのは昭和40年後半に入ってからである。くじらの場合も同じこと。IWC以前の南氷洋捕鯨の船上冷凍はマイナス20度程度だったから、その条件で保管されたシロナガスと現代の洋上冷凍技術の革新によって保管されてきたミンクを比較するなら現代のほうがよほど生鮮感のある風味になっている。だからミンクだといっても現代のミンクは昔のミンクとは香りも味も違うのだ。その証明を子供たちがしてくれた。昔のシロナガスの記憶なんかない。先日、下関市の学校給食のメニューにくじらを入れたときの、その子供たちの評価が嬉しい。口々に「こんなに美味しいとは思わなかった」という評価だった。世界でトップ水準をいく日本の海産物冷凍技術の進歩を考えれば、当然のことと思うのである。
東亜大学大学院教授、和仁皓明。記事を抜粋して紹介しました。