和仁元会長の会員向けエッセーから紹介します。鯨肉の料理っていうと「おばいけの酢味噌」「尾の身の刺身」「竜田揚げ」なんてあたりだろう。だが、「鯨のシチュー」とか「鯨のグラタン」なんていうのはあまり聞いたことがない。加えて鯨は洋食にならんのか、ワインに合わんのかと議論を吹っ掛ける人も現れてきた。おばいけは酢味噌で決まり。このままでシャブリみたいな辛口のワインをキリリと冷やして合わせても良いと思うが、それじゃ芸がない。これも一ひねりする。酢の味が合うということは、即サラダにしても美味しい。ここでおばいけのサラダ・プロヴァンス風を作る。まず新鮮な生野菜を用意する。なるべく細く仕立てられるものがいい。セロリ、きゅうり、赤ピーマンも千切り、カイワレもいい。おばいけもこの際千切り。今回は酢味噌じゃないプロヴァンス風なんだから、スリムになって貰おうという訳だ。プロヴァンス風って何?と聞く野暮がきっといる。だからドレッシングが秘密。自分で作りたくない人は、イタリアン・ドレッシングを買ってくる。それをちょっとお皿にこぼして、量が減った分をバルサミコ酢で補充する。それにスパイス売り場で乾燥バジルを買ってくる。さっきの野菜を冷やしてシャッキとさせ、バルサ・イタドレをかけ、ざっと混ぜる。
そこにバジルをパラパラと振りかける。それだけで南仏の風を頬に感じる。
最後にアントレだ。ここは赤身1級のお出まし。ビーフに変えてホエールの赤ワイン煮というのも良さそうだ。今回は全体のバランスからイタリア料理のカルパッチョをメインの皿にする。もともと子牛肉の料理の応用だ。まず玉ねぎを薄くスライスしてミート皿に一面に敷く。これは風味のためもあるけれど、くじらの赤身から出るドリップを受けてもらいたいからだ。その上に半解凍の赤身肉を薄く薄くスライスして重ね並べる。なるべく面積は広い方が美味しいので、よく切れるナイフを使いたい。そこに絞りたてのレモンジュースをタラタラと廻しかけ、さらに特上のオリーブオイルをたっぷりと廻しかける。そこでお塩だが、できればソルトミールで細かく挽いた奴を均一にかけてほしい。コショウも同じ。そこまでなら誰でもできるが、カルパッチョはここからがポイントだ。

イタリアは3年熟成のチーズ、パルナメジャーノを細かく粉にすりおろして、初雪のようにうっすらと全体に振りかける。それで終わり。あとは酒だ。赤ワインの軽い奴がいい。くじらのプロヴァンス風といったところで、そんな庶民の味でまとめるのがいい趣味だと思うが、どうかな?
和仁先生は元東亜大学大学院教授でした。乳製品の研究者ですが、食文化を語らせればわが国有数のエッセイストです。